B:猛者の亡骸 不滅のフェランド闘軍曹
第七霊災の直後、ガレマール帝国軍が、北ザナラーンに侵攻してきた際、応戦した部隊に「フェランド闘軍曹」という人物がいたわ。戦闘中に、仲間を殺されて怒り狂った彼は、さながら狂戦士の如く戦い続け、最後には散っていったの。
彼の肉体は、死した後も、敵を求めて徘徊しているそうよ。
~モブハンター談
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ショートショートエオルゼア冒険譚
フェランドは男気溢れる軍人だった。人の懐に自然に入り込み、誰もが持っている心の壁のようなものを一瞬で取り去ってしまう、そう言う男だった。彼のいう事はどんなに無茶な事でも出来る気がしたし、隊員はみんな彼が大好きだった。
当時ウルダハ軍は北方戦線においてフェランド隊の神出鬼没で型破りな戦略とその活躍によりガレマール帝国軍をあと一歩で追い払えるというところまで追い込んでいた。軍曹は最後の詰めとして、後にラウバーン緩衝地と呼ばれるこの戦場の北側を隠密裏に潜行し、ウルダハ北方防衛軍本隊と交戦するガレマール帝国軍を挟撃し、殲滅することになっていた。この作戦は北方防衛軍の幹部から押し付けられた作戦だったらしい。最初は決行に難色を示したフェランドだったが最終的に押し付けられる形で作戦遂行を承諾した。
型破りな戦略行動が大好きだったフェランド隊の隊員達だが、この作戦にはフェランドらしくないと違和感を抱くものも多く、その遂行に反対意見を上申する者もいたようだが、フェランドもまた軍人だ。上からの命令とあらば従わざるを得ない。いつものように明るく隊員を鼓舞しその気にさせた。
一抹の心配を他所に作戦は順調に進み、ウルダハ軍の思惑通りになると誰もがそう思った瞬間、フェランド隊の背後からガレマール軍の増援部隊が現れた。逆に挟み撃ちにされてしまったフェランド隊は圧倒的な数のガレマール軍にやりたい放題に蹂躙されてしまった。誰よりも愛していた隊員達の屍の中、フェランドは最後の一人になっても奇声をあげながら、血の涙を流し、狂人のように剣を振るっていたという。
後にこの作戦の首謀者であるフェランドの上官が戦況の一変を手土産にガレマール帝国に亡命したことで事の真相が明らかになる。
活躍し、賞賛を浴びるフェランドが目障りだった彼は、フェランド隊を殲滅し、戦況を一変させるこの作戦を同じくフェランドが目障りなガレマール帝国軍に秘密裏に提案、作戦をフェランドに押し付け半ば強引に罠に嵌めたのだ。
事実この一件でウルダハ軍は失速、ガレマール軍は完全に息を吹き返し戦線を押し返した。結果としてウルダハは最終手段としてラウバーンを派遣、そのため完全な勝利とはならなかったが目的である青燐水とその精製施設の一部を奪うことには成功した。
亡命をした裏切り者がガレマールの精製プラントの責任者の座を手に入れた頃、ラウバーン緩衝地になんともおぞましい姿をした怨霊が現れるようになった。それがこいつだ。
ラウバーン緩衝地の斜面を登ってきたそれは想像より遥かにおぞましい姿の異形の者だった。
背丈は3mほど、闇に溶けるような黒いローブを纏い、そのローブには苦痛に歪む無数の顔が実体として浮かび上がり、それぞれ苦しそうで不気味な呻き声を発している。
相方の女剣士は盾でフェランドの伸ばした腕の一撃をいなし、正面から斬り付けた。フェランドはまた一つ顔を失い、大量の血液らしきものと臓物のようなものを吐き出した。
ふらっふらっとフェランドは揺れる。
フェランドがゆっくり顔をあげながら天を仰ぐようなポーズを取った。その時、同時に耳鳴りのような音が聞こえたかと思うと全身が強張った。
「金縛り・・・・!!」
動かそうとしてみてもピクリとも動かない。フェランドはゆっくり女剣士に近づく。残った腕の爪を揃えて構えながら。
「おおおおおおおおおおおお」
フェランドのローブの顔がそれぞれ地の底から響くような低い唸り声をあげる。
なんとかしないと・・やられる・・
だがどうしても体が動かなかった。
フェランドが腕を引いて構える。唸り声が一層大きくなった。
「フェランド軍曹!!」
誰かが叫んだ。現地案内の男だ。フェランドはビクンっと体を揺らすと動きを止めた。
「もう、やめろ!戦いは終わったんだ!」
フェランドはゆっくりと体の向きを変えた。
「軍曹が、、あんたがそんなになってまで戦ってたら、」
男の涙は滝のように流れた。
「逃げちまった俺は、俺はどう生きればいいんだよ、兄貴!」
「兄貴??」
あたしと相方は口を開けて顔を見合わせた。
「兄弟だったの??」
男の前に立ったフェランドはゆっくり男に手を伸ばした。
その時金縛りが溶けた。
「逃げて!」
相方は全力で走り寄ると叫びながら袈裟懸けにフェランドを斬った。
手応えはあった。……が剣には薄汚れたローブが絡みついているだけだった。
中身は!顔をあげるとそこは光が溢れていた。眩しくて手で光を遮りながら何とか見定めようとしたが、光が強すぎてどうしても見えなかった。
少し離れた所からあたしはそれを見ていた。
相方が背後から切りつけるとローブだけが剣に絡みつき、するっとローブが脱げた。
そして、そこには真っ白に輝く男が立っていた。
その男を見て現地案内の男が無意識に呟いた。
「兄貴……」
「……お前、生きていてくれたのか。俺は負けたのかと思ったぞ……。お前だけは何としても守りたかったんだ。唯一の肉親であるお前だけは」
「兄貴、俺は兄貴と……」
「ダメだ。お前は生きるんだ。俺の戦いはお前を生かす事。お前さえ生きていてくれれば、俺は人生に、運命に、あの戦いに。俺は勝ったんだ」
フェランドの体に光が集束していく。
「ありがとう、生きていてくれて。本当に……」
シュウウン!と鋭い音が空気を切る。光が破裂したかのように拡散しその場にいた全員が数分視力を失った。
視力が回復した時、そこには青白い荒地がただ広がっていた。